今回は「ついに加盟店手数料に政府のメスが入る?」をご紹介します。
加盟店手数料に政府のメスが入る?!
つい最近、カード業界を揺るがすニュースが飛び込んで来ました。
これまで「開かずの間」「パンドラの箱」とされてきた加盟店手数料について、政府内でも高権を握るとされる経済産業大臣から間接的に“ダメ出し”があったのです。
この話題がテレビのトップニュースで取り上げられることはありませんでしたが、カード業界に関わる人間にとっては、ビルの屋上から冷水を浴びせられるほどの衝撃がありました。もったいぶらずに、早速お話してまいりましょう。
【序論】すべては世耕大臣の爆弾発言から・・
今回の大騒動(あくまでもカード業界内での)が起こったのは、2018年10月19日に世耕経済産業大臣が閣議後の記者会見で述べたコメントが発端です。まずは大臣のコメントを見ておきましょう。
話題は「消費税増税対策」についてでした。
記者
(前略)消費税増税の平準化策でポイント還元の対象が全てになるかどうかという今日の一部の報道もありましたけれども、まずその点について大臣のお考えをお聞かせください。
世耕大臣
まだ今の段階では、具体的にどういう形で還元をしていくのかとか、具体策はまだ未定でありますので、少し来年度の予算編成の過程で議論をして、しっかりと決めてまいりたいというふうに思っています。
記者
また、それに関連して、経産省としてはキャッシュレスを拡大することを目指していらっしゃると思うんですけれども、クレジットカードの手数料の引き下げなどに関してはどういうふうなお考えでしょうか。
世耕大臣
(前略)日本で、いわゆるクレジットカードの導入などが進んでこなかった背景には、やはり手数料負担が重いということもあったわけでありますので、今後、まあ、具体的にはこれから決めますけれども、いろいろな選択肢を準備していく、キャッシュレス対応をしやすい環境を整えていく、中小の商店でも、そういった対応ができる環境を整えていくという議論の中で、手数料を引き下げるなどの措置も検討しなければいけない。その際には、関係事業者にも協力をお願いしなければならないというふうに思っています。
(参照:『世耕経済産業大臣の閣議後記者会見の概要』)
「日本でクレジットカードの導入が進まないのは、手数料負担が重いこともあった」と世耕経産相。消費増税対策のポイント還元に参加するカード会社には、中小小売店への手数料率を一定水準に抑えることを条件にする方針です。https://t.co/uPRZv0GRJ7
— 日本経済新聞 電子版 (@nikkei) October 19, 2018
「日本のクレジットカード手数料は高い」と世耕経産相。「海外とは稼ぎ方のモデルが違う」とカード業界。消費増税対策をめぐり加盟店手数料に上限を設ける手法が反発を招いています。https://t.co/1eFnZYobN2
— 日本経済新聞 電子版 (@nikkei) December 4, 2018
たしかに、世耕経済産業大臣が「(加盟店の)手数料負担が重い」「(カード会社が)手数料を引き下げるなどの措置も検討」「(カード会社の)関係事業者にも協力をお願い」と発言していることがわかります。
なぜ大臣の発言がカード業界を揺るがすことになるのか、その理由をカード会社の収益構造を踏まえてご説明します。
【内容】加盟店手数料とは、店がカード会社に支払う手数料
まずは「加盟店手数料」について簡単にお話します。加盟店手数料とは、クレジットカードの加盟店がカード会社に支払う手数料のことです。
例えば、居酒屋でお客さんが飲み代をカードで支払うと、居酒屋は飲み代の数パーセントをカード会社に支払う仕組みになっています。居酒屋でお客さんがカード決済できるのは、居酒屋がカード会社に加盟店手数料を支払っているから、というわけです。
この加盟店手数料は、カード会社や加盟店になるお店によって異なりますが、一般的にはカード決済額の約3~5パーセントとされています。夜のお店(風俗やキャバクラ)になると、カード決済額の10パーセントが加盟店手数料としてカード会社に持って行かれます。
これを図にするとわかりやすく、現金払いの場合とカード払いの場合とでは、お店に残る利益はまったく違います。
支払い方法 | 現金払いの場合 | カード払いの場合 |
---|---|---|
飲み代の請求金額 | 10万円 | 10万円 |
仕入れなどの原価 | 3万円 | 3万円 |
加盟店手数料(仮に5%) | 必要なし | 5千円 |
お店に残る利益 | 7万円 | 6万5千円 |
「飲み代の請求金額」も「仕入れなどの原価」も同じなのに、支払い方法が現金かカードの違いから、お店に残る利益に5千円の差が出ます。たった5千円ですが、されど5千円です。
もしお客さんがカードでなく現金で支払ってくれれば、お店としては5千円が利益になったのです。
皆さんは飲食店や居酒屋の支払い時にカードを見せると、店員さんに嫌そうな顔をされたことはありませんか?店員さんが不機嫌になる原因こそ、加盟店手数料だったのです。
https://twitter.com/yassan2560/status/1042367661399658496
20万円の退院。全額クレジット。
患者さんも痛い出費だろうが、
約8000円加盟店手数料も痛いのよ。。
しかも、月末にキャッシュが入らないのも。。— リアル獣医 (@realvethospital) February 27, 2019
【カード会社】加盟店手数料を下げたくない!
お店にとって厄介者でしかない加盟店手数料ですが、カード会社にとっては生命線とも言える存在です。それはカード会社の収益構造からも明らかです。
以下は2015年に経済産業省大臣官房調査統計グループが実施した調査に基づいています。(参照:『特定サービス産業実態調査報告書 クレジットカード業,割賦金融業編』)
【カード会社の収益構造】
- 加盟店からの手数料収入 42.7%
- 分割払いやリボ払いよる金利・手数料収入 25.1%
- キャッシングの利息 20.0%
- 会員の入会金及び年会費収入 12.2%
ご覧のとおり、カード会社の収益の約半分は加盟店からの手数料収入で賄われています。意外かもしれませんが、皆さんが気にされるカード年会費や発行手数料は、収益に占める全体の約10%に過ぎません。
しかも、加盟店手数料については特に法規制もなく、カード会社の“言い値”がまかり通ってきました。「分割払いやリボ払いの金利・手数料」や「キャッシングの利息」については、消費者保護の観点から貸金業法など規制が厳しくなる中で、加盟店手数料だけは誰の目にも触れずに生き延びてきました。
そこにズバリ切り込んだのが、冒頭の世耕経済産業大臣のコメント「加盟店手数料が高すぎる、カード会社は下げる努力をしなさい!」だったわけです。しかし、長らく放置されて来た加盟店手数料の問題に、どうして急に政府が関与するのか。そこには政府の意向が見え隠れします。
【政府】東京オリンピックまでにキャッシュレス化を進めたい!
近頃、経済産業省が主導で『キャッシュレス・ビジョン』なるものが推進されているのをご存知でしょうか。
要するに、「日本人は現金払いが大好きだけど、いつまでもこのままではダメだ。2020年の東京オリンピックでは外国人観光客にお金を落としてもらわないといけないのだから、全国のお店でクレジットカードが使える様にせねばいかん」という壮大な計画です。(詳しくは経済産業省の『キャッシュレス・ビジョン』をご覧ください。)
近年、一大旋風を巻き起こした中国人の“爆買い”がひと段落した現在、これから国内で大きな消費を見込めるのは東京オリンピックしかありません。
そのオリンピック目当てに来日する外国人観光客に買い物を楽しんでもらうのは当然として、政府が頭を悩ませるのは「国内のお店でカードが使える環境が整備されていないこと」です。
まさかドイツ人が、温泉旅館や地方の居酒屋で「ワタシ現金デ払ウ、少シ安クナリマスカ?」なんて交渉する場面が想像できますか?
彼らはクレジットカードを出してサインを書く、ハイおしまいです。店員さんに「うちの店はカード払いできないんです・・」と言われるなんて微塵も考えていないでしょう。
日本国内では、加盟店手数料を嫌がってカード加盟店にならないお店、加盟店になったのにカードを使わせないお店がまだまだあります。そこへ外国人観光客が押し寄せるとどうなるでしょうか。
「現金ナンテ持ッテルワケナイヨ!」「Why?!Japanese pepple!!」と馬鹿にされた揚句、せっかくの消費チャンスが失われるのは必定です。
政府としてはそんな事態を是が非でも避けたいと考えており、冒頭の「(日本でキャッシュレスが広がらないのは)カード会社が加盟店手数料を下げないからだ」と言うわけです。
さて、ここから先は私なりの想像でしかありませんが、想定されるカード会社の対応策を検討してみましょう。
【予測】加盟店手数料が下がると、カード年会費が上がる?!
これはあくまでも予想ですが、政府に苦言を呈されたカード会社がどういった対応を取るかをお話します。
先ほど、カード会社にとって加盟店手数料は大切な飯の種だと言いました。その大切な飯の種が減ってしまうならば、カード会社はどこから補えば良いのでしょうか。
【カード会社の収益構造】
- 「加盟店からの手数料収入」42.7%
- 「分割払いやリボ払いよる金利・手数料収入」25.1%
- 「キャッシングの利息」20.0%
- 「会員の入会金及び年会費収入」12.2%
(参照:『特定サービス産業実態調査報告書 クレジットカード業,割賦金融業編』)
おそらくですが、収益源①「加盟店からの手数料収入」の減収分を、収益源④「会員の入会金及び年会費収入」でカバーすることが考えられます。
なぜなら、収益源② 「分割払いやリボ払いよる金利・手数料収入」や収益源③ 「キャッシングの利息」は貸金業法など法規制に触れる部分であるので、おいそれと自社単位での変更が困難な分野だからです。
そこで残るのが収益源④「会員の入会金及び年会費収入」です。もし、カード会社が本当に加盟店手数料を下げないといけない状況になれば、必ずやクレジットカード(法人カードも含む)の年会費や発行手数料が上がると見込んでいます。
【金言】法人カードを作るならお早めに!
以上が世耕経済産業大臣のコメントに端を発する、カード業界の騒動の正体でした。
大臣のコメントを受けてカード会社がすぐに動きを見せるかどうかはわかりませんが、私からの皆さんへのアドバイスは「法人カードを作るならお早めに」です。(笑)
理由は簡単で、クレジットカード(法人カードも含む)の年会費や発行手数料が上がる前に作った方がお得だからです。最近ではアメックスゴールドの年会費が上がりましたが(税込36,300円)、今後もカード各社が年会費を上げることは十分に予想できるため、私からのアドバイスとさせてもらいます。
最後に、現役の法人カード審査担当者に監修として参加してもらっているあなたが審査に通りそうなカードはどれ?60秒で模擬審査からカード選びのお手伝いができれば幸いです。
模擬審査では14個の簡単な質問に回答すると、各カードの審査に通る確率がA判定からD判定まで出力される仕組みとなっています。ご自身の信用情報を測定する上でも一度試してみて下さい。
また、審査に通る確率を上げるアドバイスや審査に通らなかった場合の対処法は法人カードの審査はどうなっておるのじゃ?でお話しておりますので、是非そちらも参考にしてみて下さい。
【略歴】カード会社勤務5年目を迎える営業マン。趣味は転職(社会人10年目で転職6回)、特技は早期退職(最短記録は入社後3時間でクビ)。『転職の神様』なるハウツー本の出版を志すも、会社が副業禁止であえなく断念。昼間はクレジットカードの営業、夜間は法人カードの比較サイト運営に励む毎日。いずれは審査業務に携わるべく、クレディッター(クレジット審査業務能力検定一般コース)の資格取得に向けて勉強中。>> 運営者の詳細なご紹介はこちら